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『経済倫理=あなたは、なに主義?』

アンケート結果200903

 

■ 国立民族学博物館(大阪)の研究者の方々のアンケート結果です。(2009年3月16日)

 

リベラリズム(福祉国家型) 6人

耽美的破壊主義/支配者嫌悪主義 2人

近代卓越主義 1人

地域コミュニタリアニズム 1人

共和主義 1人

新保守主義(ネオコン) 1人

市民的コミュニタリアニズム(YXYX) 1人

リバタリアニズム 1人

マルクス主義 1人

開発主義 1人

 

以上、計16名

 

この度は、アンケートにご協力いただいた研究員の皆様に、深く感謝申し上げます。皆様は民族学を研究されていますので、当初の私の推測では、とてもユニークな考え方をして日々の生活を送っていらっしゃるのではないか、現代日本に暮らしながらも、別世界に心を奪われ、異質な文化や伝統に深くコミットメントしていらっしゃるのではないか、そのように思い、アンケートではユニークな結果になるのではないかと期待しました。

結果をみると、リベラリズム(福祉国家型)が多数派であることが分かります。これはある意味で意外です。というのも、これまでの結果とほとんど相違がないからです。しかしそれ以外のイデオロギーは実に多様で、ほとんど一人ずつ別のイデオロギーを選択されました。これはとても興味深い結果です。

 一つの研究組織体において、しかも民族学という同じ学問を研究する同僚のあいだで、どうしてこれほどイデオロギーが分散するのでしょうか。おそらく、研究対象となるフィールドの数だけイデオロギーも多様であり、研究者はその多様なフィールドにそれぞれ影響を受けるということでしょうか。

 これだけ多様なイデオロギーをもった人材を、一つの組織で採用することができているというのは、それ事態がすばらしいことであります。人事において、イデオロギー傾向が偏らず、また先輩から後輩へとイデオロギーが継承されていないというのは、かなりフェアな人選ではないでしょうか。もしかすると人選において、できるだけ多様性を保つように、との配慮があるのかもしれません。そのような多様性の空間を築くことは、実はとても難しいことであり、この点で、国立民族学博物館は、人材の博物的な収集に成功しているとも言えます。小長谷有紀先生の寛大で包摂的な力が、人選に表れているようにも感じました。多様なイデオロギーをもった人々が集い、濃密な議論ができることを、私はとてもうらやましいことであると思います。

 もちろん、研究者としてすぐれた力を発揮するためには、自身のイデオロギー的傾向を抑制して、ザッへに徹して研究対象に取り組まなければなりません。対象に思い入れがありすぎると、かえって冷静な理解を妨げるからです。そういう事情から、研究者の方はしばしば、自分のイデオロギー的傾向が「中立的」であると装ったり、あるいはイデオロギーの問題については深く考えないようにしたりする傾向にあります。

 しかし経済倫理においては、こうした中立性や思想的無頓着性が、じつは大問題なのです。経済倫理は、認識の学というよりも、判断の学です。実証的な研究にいそしんでいるあいだに、判断の学はしだいに無視されていく。そうなると、研究者は十分に倫理的ではない、ということになってしまうのです。倫理というのは、「いい人」になることではありません。いい人でも、心のやさしい人でも、倫理の言語でもって自分の立場を一貫させようとしていない人は、非倫理的である。そういう判断が下されるのです。これはある意味で恐ろしいことです。

 いずれにせよ、ここでイデオロギーと呼ばれているものは、日々の生活における人々の意識であり、思考習慣です。それを私たちは、ふだんは無自覚に抱いて生きている。けれども人々の意識や思考習慣を、例えばフィールドワークの聞き取り調査で明らかにする場合には、拙著のこうした類型化は役に立つかもしれません。例えば、時代を通じて、マルクス主義の意識を抱いた人々は、どのような意識へと変化していったのか。あるいは、地勢学的な観点から、政治的中心に近い人と遠い人では、どんなイデオロギー的差異が生まれるのか。そうした問いを、私もいつか研究してみたい、と考えています。

 この度は、研究会にお招き頂き、またアンケートに答えていただき、ありがとうございました。小長谷有紀先生、ならびに参加していただいた皆様に、心よりお礼申し上げます。